GEN-SUNのブログ

海と音楽がライフワーク

いよいよ「海に愛された男たち」潜行走破50キロ、ラストシーン!

さて、いよいよです。
潜行走破50キロの中盤以降のノンフィクションストーリーです。
この記録には僕の実量だけではなく、和歌山の有力者が200万円近くを投じてくれたから
実現したのです。
来週、その人に会いに行くつもりです。

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「潜行走破50キロ」の準備をしているスタッフたち


〈著書抜粋〉

●エピソード二四〔和歌山 白浜沖〕潜水記録樹立「潜水走破五十キロ」(昨日の続き・・・)

吉川 元

湯川ファミリーに船を三隻、漁師さんを四名、クルーを二名、その上、直営の民宿を貸しきってくれて、晴れて実行可能な舞台が整った。
なんと湯川の親父さんは航跡が記録できる航行用GPSを、新たに二機も買い揃えてくれた。
僕たちは、サポートダイバーや通信スタッフ、陸上待機スタッフを含めて一四名の大所帯。放送局と月刊誌の取材班が五名、各新聞社の記者、湯川ファミリーのスタッフを加えると、何と四〇名以上の人たちの力を借りたことになる。
必要経費はすべて湯川益至さんのご厚意を頂き、何から何までお世話になったことも付け加えておきたい。
何でこんなことになったのか、読者はさぞ不思議に思われるだろう。
その当事のみなべのダイビングポイントは未開拓状態で、〈シーマインド〉は田辺のダイビングサービスが使っているポイントを共有して潜っていた。
あるきっかけで、湯川の親父さんが魚探で見つけた海域をリサーチすることになり、そのことが彼と僕をいっそう強く結びつける縁となった。
漁師名でいう〈ミサチ〉、〈ショウガセ〉、〈タカホ〉、〈マッタケ〉などをリサーチして水中地形図の作製と撮影を繰り返した。
南部独自のポイント開拓を手伝えたことが、他のダイビングショップとの一線を隔すこととなったようだ。
僕がみなべの海をこよなく愛するようになったのは、湯川益至さんへの恩返しをしたいという強い気持ちがあったからである。

二十五日早朝、民宿の階下では騒々しく人が動いている気配がしている。
昨夜三時まで続いたミーティングのせいで目が冴えて五時まで眠れず、六時過ぎにはりかさんに起こされて時計は今六時半をさしている。
「これはぼやぼやしてはいられない」
準備したバッグ類を担いで階段を駆け下りた。
階下でテレビの天気予報に見入っていた毎日放送局のカメラ班につかまった。
「吉川さん、天気大丈夫ですかね。今日、出来るんでしょうか」
 僕は笑顔で返す。
「準備をしていてください。下見に行ってきます」
防波堤から沖を心配げに見つめるメンバーたちと目が合う。りかさんが僕に近づいてきた。
「良くないですね。やれればいいけど・・・」
「海が判断してくれる。下見してくるね」
僕は八時過ぎに出港する磯丸に乗り込んだ。磯さんとは目を合わしたものの、満足な挨拶をすることなく船は港を出た。
磯さんは僕にキャビンへ入るように言ってくれたが、船首で波しぶきを受けながら僕は沖を睨んでいた。

白浜沖一〇キロの海域に船を止めて日和を見る。風は北西の風、波は一・五メートルから二メートル。西の空は雲が切れ、青空が顔を見せている。
「吉川さん、これなら行けるな。帰って出発の準備しょうや」
 磯さんはそう言って無線機に手をやった。
「湯かっちゃん、今から帰る。準備しといて」
クールな話し方がとても似合うのが磯さんだ。このときの磯さんのカッコ良さを僕は絶対忘れないだろう。
港に帰るなり僕は湯かっちゃんの勝丸に走って行った。振り返った湯かっちゃんはおたふくのような顔をしていた。
川口氏を中心に機材準備をしているメンバーたちを横目に、僕は潜水方法の最終チェックに入る。
潜水補助用のセッティングもいい出来栄えだ。本船の左舷にポールを四メートルほど差し出し、その先端から二〇キロの重さのウエイトを付けたショットラインを海中十四メートル深度に落とし込む。
ウエイトが軽すぎると流れに逆らった場合はショットラインが浮き上がり、逆に重すぎるとラインに掴まるダイバーの抵抗が大きくなる。
少しの時間だがメンバーたちひとりひとりに僕と潜る機会を与えるつもりなので、このショットラインは彼らを導くガイドロープとしての役割も果たす。
また、張り出したポールはかなりフレックスなので、船のピッチングとローリングを吸収、緩和するサスペンションの役目もはたしてくれるのだ。
そのショットラインに沿ってスライドできるガイドラインを設けて左舷に結び付けた。これは、水中電話のコードが断線しないよう添わせるための補強ロープとして使うつもりだ。

ボートは予定人員を乗せて出港。時刻はちょうど十一時十五分。
三隻の漁船が白浜沖に向かって突き進んで行く。二メートルの波が船体にぶつかって大きく砕け散っている。
スタート海域に到着したものの、黒潮の支流を捉えられずに船は右往左往を繰り返した。流れに乗って潮岬方面を目指すつもりが流れを探せないでいる。
スタート海域到着から一時間半が過ぎてようとしたとき、ようやく緩やかな流れを捕まえることができた。やっとこれでチャレンジを始めることができる。
十四時少し前にエントリー開始。今日の和歌山の海中は普段より透き通って暖かい。海水が体に馴染んで気持ちがいい。
まず、三時間ほどフーカー潜水で潜水を始めたが、どうも潮の流れに逆らって船が上手く移動出来ないでいるようだ。
フーカーホースにもかなりの抵抗がかかって僕の口もとからレギュレーターが何度も外れかける。フーカーホースもポールに添わせて固定しておくべきだったと後悔したがすでに遅しである。
しばらくはこの方法で潜って潮見船の動きを見て判断をすることにした。しばらくするとアゲンストの水流抵抗がなくなってフォロー気味の流れを感じるようになった。(明日に続く)