GEN-SUNのブログ

海と音楽がライフワーク

「海に愛された男たち」がいよいよ動き出した。

去年から原稿を書き始めて1年3ヶ月。
ダイバーズエッセイ「海に愛された男たち」が7月20より注文受付開始となった。
オンラインショップは8月に入ってかららしい。
ひとりでも多くの人にダイビングの光の部分と影の部分を知ってほしいのでこの
ノンフィクションストーリーの一部を抜粋してお知らせします。


著書抜粋

〔プロローグ〕

小学校、中学校は水泳選手だったせいか水面のスポーツにしか興味がなく、水上スキー、サーフィン、
ウインドサーフィンと軒並手を出したものの、すべて中途半端に投げ出したままだ。
この性格は幼年のころからのもので諦め顔の母の言葉をいつも思い出す。
「ハジメ君の辞書には窮(きわ)めるという言葉が載ってないね。何でも出来てると勘違いすることは何
も出来へんのと同じやで」
 5歳からお稽古事をさせられて、ある程度まではすぐに上達するのだが興味を無くすのもあっという間
だった。まったく母の言う通りである。
そんな中、昭和52年にスクーバダイビングと出会った。25歳の夏、知人から越前海岸へ誘われたのがき
っかけとなる。
その知人は、エアタンクをハーネスという背負子(しょいこ)に固定してレギュレーターだけをセットして
渡してくれたかと思うと、さっさと海に消えていった。
レギュレーターとは水中で容易に呼吸できる重要な機材のことをいうが、本来ならタンクの空気量と水深
を示すゲージも付いていなければならなかった。  
Tシャツと半パンとバスケットシューズ姿の僕はそのハーネスという代物を背負い、訳もわからないまま
後を追って潜った。自分が滞在している水深もタンクの残圧もわからずに潜った訳だが、ただただ怖さ知
らずで気が回るどころか舞い上がっていたのだろう、恐怖を覚える余裕はなかった。
それが最初のダイビングである。
潜って耳に水圧がかかった時、鼻を摘んで耳腔内の圧を平衡する耳抜きというテクニックさえも教えてく
れなかった知人だったが、僕にダイビングの機会を与えてくれたことには心から感謝している。
こんな飽き性な僕が何故かダイビングに填(は)まってしまい、インストラクターの資格まで一気に取って
しまったのである。

さて、水中通話装置だが、1,500万円程かけて試作品までは仕上げた。ところが、従業員のひとりが設計書
もろとも持ち出して姿を消してしまったのだ。
預金も底を突き、立ち直ることもできないくらいショックを受けた。
しばらくしてその水中通話装置は、とあるダイビングメーカーから新製品として発売されたのだがまったく
といっていいほどヒットしなかった。
僕としては非常に複雑な心境である。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


〔エピソードⅠ〕

●エピソード三〔古座 上瀬〕ヨッちゃん、ターザンになる

吉川 元
ここ数年、古座の透明度は抜きん出ている。そして暖かい。今日も最高のコンディションだ。
アンカーロープ沿いに潜降しながら海底に目を向ける。水深18メートルの尾根が見えてきたが、アンカーは
その尾根の上ではなく尾根の傍をかすめて下に落ちていた。急いでアンカー下まで行ってみると尾根の斜面
27メートルの深さに辛うじて止まっている。
かかりが悪そうなのでアンカーを担いで近くの窪みにかけ直した時にちょうどみんなが到着した。メンバー
はアンカーを担いでいた僕の姿を見てニヤニヤしている。
そんなメンバーを尻目にコースリードを始める。
今日は魚影の色濃さが有り難い。大型のスジアラ、キジハタ、ナンヨウブダイと大物が迎えてくれる。上層
をキビナゴが群れをなして逃げ回っている。案の定、キビナゴのあとを30尾ほどのカンパチの群れが追いか
けてきた。彼らはきらきらと輝いていた。
海の中は素敵だ。
峯下君はタキゲンロクダイを追い詰めて夢中にカメラのシャッターを切っている。その傍をハタタテダイが
急いで通り過ぎて行った。ハタタテダイを撮りたいと言っていた彼はまったく気付いていなかったが、その
ことを知れば、さぞや残念がることだろう。
石原君は大きな石をひっくり返してナイフで岩場を堀っている。小さなガンガゼをつぶして魚たちに餌付け
をするのだろう。
みんな思い思い楽しんでいる。久しぶりに満足のいくダイビングになりそうである。
「さあ、船に帰るか」
集合をかけて、移動し始める。アンカーロープがうっすらと現れてきた。しだいに、はっきりと、光を浴び
た真っ白いロープが見えてきた。
「あったあった、アンカーが」
気分も上々。5メートルほどの距離に近づいてみるとアンカーが小刻みに踊っている。舟のピッチングのせい
だ。
風波が出てきているようだ。
僕がアンカーロープを掴んだそのとき、一瞬踊ったアンカーがまるで振り子のように円弧を描きながら水中
を飛んだ。
そのアンカーと一緒に僕も飛んでいた。
アンカーにすがりつきながらメンバーの方をチラッと見た。彼らはガッツポーズと喝采の拍手を送っていた。
アンカーは蹴られたが水中を飛んだ妙な新鮮さが僕の体を満たしていた。・・・・・・・・・・・・・・・

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タキゲンロクダイ